楚の李斯(りし)
カワヤのネズミは糞尿を食とし人や犬を恐れて逃げる。
米蔵のネズミは米を食とし広い場所で悠々と暮らしている。
どこにいるかで生き方が違ってしまう。
人もおなじではないか。
李斯はリーダーとしての心得を学び終えると活躍の場をもとめ楚を去って秦に赴いて呂不葦(りょふい)に仕えた。
主は彼の能力を評価し宮中の役人に推薦する。
李斯は秦王に進言する機会を得、
周王朝が衰え、それを支える者がなく天下が不安定なことを説き
「大王は何かを待っておられるようですがそれでは天下を得られません。
いまは行動の時です。
大王がご出馬されれば天下は容易に統一出来るでしょう。
どうぞご決断を!」
秦王は李斯に権限を与え彼の戦略を採用する。
財力で落とせる者とは同盟し、
頑なに拒む者は武力で撃破。
秦は着実に版図(はんと)を広げてゆき20年余で天下を統一した。
秦は始皇帝となり
李斯は丞相に。
田舎の役所でネズミを観察していた若者はいまや秦王朝のナンバー2となった。
始皇帝崩御。
彼は長子・扶蘇に実質的に皇帝の地位を譲るという
<軍は参謀の蒙てんに委ねて私の柩をむかえよ>
と書簡を残す。
側近・趙高は教育係を務めてきた始皇帝の末子・胡亥を後継者に据えるため工作を始める。
胡亥を言いくるめ李斯を説得。
扶蘇が皇帝になれば
親しい蒙てんが重用され
あなたの地位は危うくなる
という言葉が効いたのか
リーダーとしての能力は扶蘇よりも胡亥が上という言葉が効いたのか。
李斯は最初は消極的にやがて積極的に謀略を進める。
始皇帝の残した書簡を棄て、
偽りの遺言を作る。
<後継者は胡亥、扶蘇は自決せよ>
思惑は成功し、胡亥は皇帝となった。
ところが彼は暗君。
趙高にそそのかされて、為政のさまたげになりそうな人物を次々と殺し、人民には重税を課す。
見かねた李斯は趙高の人なりをといて諫めるが逆に趙高に陥れられ、謀反の疑いで処刑された。
(参考文献司馬遷・史記
小竹文夫・小竹武夫訳)
李斯は後継者問題で眼がくもった。
なぜか?
最大の理由は権力を手中にしていたからであろう。
権力は人を酔わせる力がある。
権力闘争では今日の勝者が明日の敗者になる。
趙高も最期は惨殺される。
古典に学ぶ
アジアの知慧
村上 政彦より抜粋
歴史は凄い!